愚痴の権利
和華「散歩してくる。」
在宅勤務が増えて、少し退屈になった昼。
和華は散歩をすると言って家を出た。
ついでに買い物もしてくるらしい。
咲「いってらっしゃい。」
普段の買い物と散歩と何が違うのだろうと思ったが、何かが違うんだろうなと答えを出し、僕はいつも通り机に向かう。
世の中は少し前までとは変わったらしく、どうやら散歩をする人が増えているらしい。
和華はその影響を受けたみたい。
和華「今まで気にしてなかったけど、身体動かすとスッキリするね。」
咲「今まで気にしてなかっただけで、和華はいつも身体を動かしてる。」
和華「職場まで歩いて電車乗ってるから?咲は基本ずっと家にいるもんね。」
咲「僕なんかよりもずっと動いてる。」
和華「でもそれすら少なくなるとなんだか物足りないのよ。」
気づいたら変わっていた日常。
変わらない日常に気づいた日常。
世の中は今もめくりめく変わっている。
和華「今日さ、途中でコンビニ寄ったの。」
咲「うん。」
和華「のど渇いちゃって。」
咲「お水。」
和華「でね、全部飲んだから捨てようとしたの。でも捨てれなくて。」
咲「ゴミ箱は?」
和華「ゴミ箱撤去してるんだって。今だけ。」
咲「で、持って帰ってきたんだ。」
和華「目の前で無理やり店員さんにゴミを渡すおじさん見ちゃったら持って帰るわ。」
咲「そんな人いるんだ。」
和華「僕だって捨てたかったわ。いつもはあるのに。」
咲「愚痴だね。」
和華「買い物する前に買ったのがいけなかったな。ごめんそれだけ。」
咲「和華は愚痴を言う権利があるからいいんじゃない?」
和華「権利?また変な話するね。」
咲「愚痴の1つや2つ言いたくもなること誰にでもあるけど、ルールを守らない人には言われたくないよね。」
和華「あのおじさんには言う権利はない?」
咲「ない。それは愚痴じゃなくてクレーム。迷惑。ルールを守らないくせに偉そうなこと言うなって感じ。」
和華「怒ってる。」
咲「お父さん。そういう人だった。」
和華「持って帰ってきてよかった。咲に嫌われるところだった。」
咲「それは愚痴。和華はルール守ったもん。」
和華「咲の愚痴は?なんかないの?」
咲「うーん。どうだろう。」
咲「お父さん。その時はすごい嫌いだった。話すことすべてがクレームに聞こえた。その時はね。」
世の中が変わる中で、自分の価値観も変わっていく。
父は、一時的な、変則的なルールには従えなかったけれど、元々の社会的なルールの中では生きていた気がする。今はそんな気もしてしまう。
ただ、臨機応変に対応ができない不器用な人。
普段はあるゴミ箱。
今日はないゴミ箱。
それに対応できない不器用な人。
めくりめく変わる。
世の中は止まらずに変わっていく。
そんな時間に、世の中に、
愚痴の1つや2つ、言いたくなるだろう。
愚痴を言う権利。
僕にはあるかな。