すずめの住む街。

「あなたの街にすずめはいますか?」

走りたい気分

咲「ねえゲームしよ」

和華「めずらし」

咲「やりたい気分」

 

夜ご飯を食べ終わり、最近世間で流行っているらしいゲームをしてみたくなった。

和華「咲下手くそ」

咲「逆に和華は何でそんなに上手いの」

和華「会社の先輩に教えてもらったことある」

咲「へえ〜」

和華「なにその声」

咲「へ〜そうなんだ〜って理解した声」

和華「嫉妬した?」

咲「しないよ」

和華「しないか」

咲「してないよ、たぶん」

和華「僕が教えてあげようか」

咲「いい。どうせ上手くなれないから」

和華「10分前よりはマシ」

咲「10分間経験値積み重ねてるから」

和華「じゃあちょっと着替えてくるね」

咲「どこ行くの?」

ふと何かを思い出したかのように適当なTシャツに着替える和華。

咲「走るの?」

 

和華「うん」

 

テーブルの食器を台所に持っていき、ちゃちゃっと洗って片付けた和華は、これからどうやら走りに行くらしい。

 

咲「めずらし」

和華「ちゃんと皿洗って偉いでしょ」

咲「そっちじゃない」

和華「じゃあちょっと行ってくるね、運動不足解消」

咲「今ゲームでいっぱい走ってたのに」

和華「現実で走らないと意味ない」

 

咲「運動を補充。不足の解消」

 

和華「咲は足りてる?」

咲「足りてない。行かない」

和華「早い」

咲「気分無くなる前に走っておいで」

和華「よくわかってる」

咲「僕はこっちでもう少し走ってみる」

和華「ゲームで運動不足解消?」

 

咲「だとしたらとても足りてる」

 

和華「どちらかというと脳トレ

 

咲「間違いない」

 

和華「行ってきまーす」

 

咲「行ってらっしゃい」

 

和華「そのステージはたくさん跳んでたくさん走るんだよ」

 

咲「がんばりまーす」

 

今日はそういう気分の日。

月を食べる日

いつも通りの帰り道。

電車に乗って、駅を降りて。

いつもの駅前、冬が近づきライトアップ。

そんな街に、人が集まっている。

人は皆、空を見上げてカメラを構えているんだ。

咲「和華!」

和華「何?お迎え?」

咲「おかえり」

和華「ただいま」

咲「ほら見て」

和華「ん?」

月が欠け始めていた。

今日は皆既月食らしい。

そういえば23日前にそんなニュースを見たっけ。

咲「気になって外出てきちゃった。ついでに和華を迎えにきた」

和華「人がいっぱい集まってるから何事かと思った」

咲「どんどん食べられていく」

たくさんの人が夜空を見上げる19時すぎ。

「わー!今日皆既月食なの忘れてた!!見なきゃ!!」とはしゃぐ小学生。

「ねえママ帰ろうよおもう帰ろってばあ」と皆既月食から目を離さないママの袖を引っ張り続ける幼稚園生。

犬の散歩ついでに皆既月食を見に来て、旦那さんを待つ奥様。

咲「じゃあそろそろ帰ろっか」

和華「いいもの見たね」

旦那さんに飛びかかるワンちゃんと。

お店番しないといけないのに一瞬だけ出てくる店員さんと。

今日もこの街は平和です。

追いかけっこ



1歩進む。


1歩進む。



2歩進む。


2歩進む。



大きく1歩進む。


大きく1歩進む。



振り返る。


微笑む。



前を向いて1歩。


安心して1歩。





同じ道を行く。


ただ、同じ道を行く。



開拓して。未知への1歩。


信頼して。未来への1歩。




振り返れば君がいて、目の前には君がいて。


今日もこうして同じ道を。



そしてともに、羽ばたこう。


ルーチンフリーダム



咲「朝起きて、ご飯食べて。昼ごはん食べて、夜ご飯食べて。お風呂入って、寝る。」


和華「たまにお昼ご飯食べるの忘れて、3時くらいに食べる。」


咲「家帰ってきてすぐ夜ご飯。」


和華「4時間くらい空くと普通に食べれちゃう。」


咲「お腹空いてたらいいんだよ。」


和華「空いてない時に無理やり食べるのはよくない。」


咲「よく昼ご飯食べずに夜になってる。」


和華「お腹空かないならいいけど。」


咲「全部忘れて夜になってる。」


和華「たまにやるよね。」


咲「知らない間に寝ちゃって、起きたら目の前に和華がいるの。」


和華「毎回びっくりする。」


咲「そう。」


和華「忘れたりしてさ、抜ける分にはいいけど、仕事やら人付き合いやらで食べざるを得なくなったり、食べられなかったりするとストレス溜まる。」


咲「良くないね。」


和華「ご飯多かったり抜けたりしただけなのに、全体的に調子狂う。」


咲「忘れるってすごい。」


和華「あと睡眠ね。」


咲「大事。」


和華「休みの日に遅く起きたり、たくさん食べたりしても狂わないのになあ。」


咲「生活が変わってない割に生活を変えることがダメなんじゃない?」


和華「それか、こうしなきゃ、みたいな理想像に追われてるか、か。」


咲「和華の理想。」


和華「実は咲みたいな生活憧れてたりして。」


咲「怖い。」


和華「絶対ないね。」


咲「ないの?」


和華「あるわけない。退屈しちゃう。」


咲「しそう。」


和華「ご飯食べるか。」


咲「今日はカレーライス。」


和華「杏仁豆腐。」


咲「こうしてここで暮らせるだけで調子は良い。」


和華「咲といるだけで。」


咲「そう。僕といるだけでいいんだよ。」


和華「あの子にもそういう人がいるといいんだけど。」


咲「考えすぎなんじゃない?」


和華「ストレス感じなくていいことから感じるの得意。」


咲「もっと楽に過ごせばいいんだよ。僕らみたいに。自由に。気にせず。いつも通り。」


和華「いつもを変える必要はないよ、って言っとく。」


咲「伝わるといいね。」



相性



亜織「色んな人がいますよ。ショートの方が似合うから、とか。肩についてる方が好きだから、とか。」


咲「毛先が傷んでる、とか?」


亜織「そうです。でも、この間切りに来た人も暑くて耐えられなくて、って言ってましたよ。」


咲「短いと楽ですもんね。」


亜織「咲さんは特にどうしたいとかないんですか?」


咲「ないですね。伸びては切って、伸びては切って。暑かったら切るし、寒かったら伸ばしてしまう。」


亜織「染めたことはないんですか?」


咲「ありますよ。茶髪。」


亜織「そうなんですね。想像できないです。」


咲「意外?」


亜織「なんで染めたんですか?」


咲「興味。」


亜織「茶髪に興味あったんですか?」


咲「茶髪じゃなくてもよかったけど、単純に黒じゃない自分の髪を見てみたかった。」


亜織「茶髪だった理由は?」


咲「和華にやめてって言われた。」


亜織「目立っちゃうから。」


咲「そう。」


亜織「その感じだと1回だけですかね。」


咲「髪の毛は伸びるものだし。どうせ切っちゃうし。」


亜織「どうだったんですか?茶髪の自分。」


咲「うーん。別に何も。自分じゃ鏡見るときくらいしか気付かないし。」


亜織「その鏡見るときを聞いてるんですよ。」


咲「茶色だーって。明るく見えました。大事なんだなあと思って。見た目。」


亜織「そりゃ大事でしょうよ、見た目。」


咲「僕が生きる世界ではあまり僕の容姿は関係ないから。そこじゃないから。」


亜織「だから髪切る理由は暑い、と。」


咲「はい。」


亜織「分かりやすくていいと思いますよ。」


咲「あと邪魔になったら切る。」


亜織「あ、そういえば。髪質が合ってるんですよ。」


咲「髪質?」


亜織「咲さんのその性格に、髪質が合ってるんです。」


咲「めんどくさがり?」


亜織「ほったらかしでも気にならないもしくは気にしなくても済む髪質というか。めんどくさくても何か月に1回は切ってないとやってられない方もいらっしゃいます。どうしても似合わないというか。」


咲「伸ばすと四方八方に広がっちゃうとか?」


亜織「そうです。それがどうしようもなくて、めんどくさいけど切らないとやっていけない、みたいな。」


咲「へえ。」


亜織「咲さんの髪はまとまりやすくて癖っ毛だから。少なくとも僕は羨ましいです。」


咲「へえ。この髪質ありがたいのか。」


亜織「そうです。」


咲「面白いですね。」


亜織「そうですか?」


咲「気づきは大体人から与えられるものです。」


亜織「新たな発見をして、か。」


咲「また半年後くらいに来ますね。」


亜織「本当は2〜3か月に1回を推奨してますけどね。」


咲「何回目かのやり取り。」


亜織「またお待ちしてます。」


咲「ありがとうございました。」


言葉の食べ方



和華「タフってなんだろう。」


咲「タフ?」


和華「タフだよね、って言われた。」


咲「強いこと?」


和華「僕ってタフ?」


咲「タフかなあ。和華って強いの?」


和華「強いと思う?」


咲「何に対して?」


和華「なんだろうね?」


咲「難しいね。」


和華「心が強いことと身体が強いことって違うよね。」


咲「違うね。」


和華「何をもってタフと言われたのだろう。」


咲「なんでそういう話?」


和華「親御さんが入院してしまって、仕事が手につかなくなった人がいてね。」


咲「心配。」


和華「そしたら今日熱出したって休んだの。」


咲「心配。」


和華「で、なんだかんだでタフだよねって言われたんだけど。」


咲「誰でも心は病むときは病むけど。」


和華「それが身体に出ない人もいるよね。」


咲「タフっていうのは身体的なことを指すんだなあ。」


和華「損じゃない?」


咲「損じゃないよ。」


和華「みんな等しく傷つきやすいし弱かったり強かったりすると思うんだけどな。」


咲「それを隠しながら生きてる。」


和華「難しいね。」


咲「隠すのが上手いかどうかはまた別の話。」


和華「あと捉え方か。」


咲「タフという言葉をどう捉えるかは人それぞれ。」


和華「なんで損をすると思ってしまうんだろう。」


咲「気付いて欲しい時に気付いてくれる人がいて欲しいという欲望を持ってる。」


和華「人はひとりじゃ生きられないのに。」


咲「そういう人がいたらいいけどね。」


和華「気付けるかどうか、か。」


咲「僕はひとりにさせない。」


和華「背負い込みすぎないでね。」


咲「僕はここにいるよ。」


和華「僕たちはここにいる。」


咲「ここで生きてる。」


あたたかさの輪



和華「うちの人もね。」


果久「え!待って!」


和華「なんですか?」


果久「一人暮らしのイメージだった!」


和華「それが違うんですよ。」


果久「へー!いいね!」


和華「それは置いておいて。」


果久「あ、そうだった、何?」


和華「大体笑顔なんですよ。」


果久「あたたかいひとね。」


和華「果久さんが言ってた笑顔が輝いてる人はあたたかいって話。分かるなと思って。」


果久「そして広がるんだよね。そのあたたかい空間が。」


和華「自分までなんというか、あたたかくなるんですよね。」


果久「本人はそんな自覚ないんだけどね。」


和華「そう。もちろん常に、とは言わないんです。機嫌悪い時もあるし。」


果久「テンション高い時とかは見てるこっちが幸せになる感じでしょう?」


和華「そうなんですよ。そういううちの人を見るたびに、そばにいられて幸せだなって。」


果久「そういうのは広げていくべきだよ。」


和華「笑顔ですか?」


果久「笑顔というか...うーん、あたたかさ?」


和華「あたたかさ。」


果久「和華さんも今すごいあたたかいよ。それそれ。」


和華「普段は冷たいって?」


果久「もう。」


和華「合ってるか分からないけれど、あたたかいときは何言っても許される気がする。」


果久「高揚してるんだよ。」


和華「ワクワク?」


果久「ふわふわ?」


和華「ほ、ほわほわ?」


果久「全部ひっくるめての、あたたかさ。広げたいなあ。」


和華「広げたいねえ。」


果久「人はネガティブになることもあるし、怒ることもあるのかもしれないけど、こうしてあたたかくいられるだけで、生きててよかったって思えるじゃない。」


和華「わかります。」


果久「その瞬間が少しでもあるだけで、心が軽くなってさ。」


和華「幸せなんですよね。」


果久「今日くらいは幸せでいていいんだよって。」


和華「そういう時間も大切ですよね。」



咲「幸せってなんだろうね。」


和華「なんだろうね。」


咲「難しいよね。」


和華「難しいね。」


咲「今日は幸せだった?」


和華「うん。楽しかった。」


咲「そっか。」


和華「こうやって後先考えずに心を軽くいられる時間も大切だなって。あたたかい時間ってやつ?」


咲「幸せだね。」


和華「咲は今日は幸せだった?」


咲「難しいね。」


和華「今は?」


咲「ずるい。」


和華「あたたかいなあ。」


咲「暑いよ。」


和華「ずるいな。」


咲「僕は今日も昨日と変わらぬ1日。変わらずちゃんとこうして和華と生きてる。」


和華「暑いなあ。」


咲「暑いよ。」


和華「今日もアイス食べちゃう?」


咲「食べちゃう?」


和華「食べちゃおう。」


咲「あついね。」


和華「あついよ。」