すずめの住む街。

「あなたの街にすずめはいますか?」

ため息





【仕事終わった。今から帰るね。】



和華「うわ、雨降ってる...」


昼間は晴れていて気持ちが良かったのに、夜になりひどく降る雨。

仕事で疲れているせいか、無駄に気分が落ち込む。


今日は忙しかったな。


隣には同じビルの数階上のレストランで食事を楽しんだ団体客。




鞄から折りたたみ傘を取り出し、雨の中へ一歩踏み出そうとしたその時、声をかけられた。


「写真撮ってもらってもいいですか?」



小学校低学年くらいの子供達と、その親達。

15名ほどの団体のうちの1人に声をかけられた。


ほろ酔いのお父さん。

楽しかったんだろうな。



ビルの1階、3歩ずれれば雨に打たれるような何もない場所で、弾けるたくさんの笑顔。


ああ、楽しかったんだろうな。



和華「では撮りますよー。はいチーズ。」



「おっ、良い写真ですね。ありがとうございます!」


和華「いえいえー。」




ああ、楽しかったんだろうな。








咲「折りたたみ傘。」


和華「折りたたみ傘?」


咲「鞄から取り出している時に思ったでしょ?」


和華「何を?」


咲「写真。」


和華「...うん。」


咲「優しいね。」


和華「優しくないよ。」


咲「優しくない人は断るよ。」


和華「仕事終わりに楽しそうに立ち話する団体と雨はだめだよ。」


咲「何がだめなの?」


和華「なんか...憂鬱になる。」


咲「うーん...。お風呂入りな。疲れてるだけだよ。」


和華「憧れてるのかな。」


咲「憧れてるの?」


和華「ごめん、なんでもない。」


咲「じゃあ今度ホームパーティでもする?10人くらい呼ぶ?」


和華「呼ばない。」


咲「ほら、疲れてるだけだよ。」


和華「なんか申し訳ない気持ちがさ。」


咲「そういう時もあるよ。」


和華「咲もそういう時あるの?」


咲「あるよ。全部が面倒くさくなっちゃう時。」


和華「どうするの?」


咲「どうもしない。仕方ないじゃん。」


和華「...。」


咲「たまには全部投げ出してみたら?」


和華「そんなことできない。」


咲「できるできる!明日も僕がご飯作るから和華は休んで。」


和華「明日は僕が作るよ。」


咲「じゃあ面倒くさくなったら1回は僕が作るから言ってね。」


和華「分かったよ。」


咲「僕も面倒くさくなった和華に言うね。」







和華「その時は2人であのレストランに行こう。」