すずめの住む街。

「あなたの街にすずめはいますか?」

照らす人



明里「すいません、この辺にブレスレット落ちてなかったですか...?」



買い物を終え、大きな袋を抱えたその人は、他のお客さんやレジの店員さんに訊いて回っていた。



「いや、ちょっと分からないですね。」





咲「どうしたんですか?」


明里「さっきまでつけていたはずのブレスレットを落としてしまって...」


咲「その買い物袋に入ってしまっているのではないですか?」


明里「探したんですけど、なくて。」


咲「うーん...。」


明里「トイレにも行ってみたんですけど、そこにもなくて...」


咲「トイレに行かれたんですね。他には?」


明里「いや、他にはどこにも...」


咲「僕も一緒に探しますよ。」


明里「申し訳ないです。大丈夫ですから。」


咲「時間はあるので、大丈夫ですよ。」



その人は、諦めずにまた他のお客さんや店員さんに訊いてまわる。


大切なものなのだろうか。

大切なものなのだろうな。




咲「ないですねえ。」


明里「すいません、ありがとうございました。本当に、大丈夫ですから。」




帰ろうとするその背中を見て、僕は声をかける。



咲「腕...」


明里「腕?」


咲「肩の下あたり。」


明里「あっ!!」




七分袖の下から顔を見せたブレスレット。

トイレに行った時に、無意識に腕の上の方に避難させていたらしい。




明里「本当にごめんなさい!恥ずかしい...」


咲「無くしていなくて良かったです。」


明里「本当にご迷惑おかけしてごめんなさい...」


咲「僕もよくありますよ。眼鏡をかけて眼鏡どこだろう、とか、リモコン持ってリモコンどこだろう、とか。あるあるですよ。」



灯台下暗し、ってやつですかね。」



心配そうに見つめていた店員さんはニコッと笑った。


お店に穏やかな空気が流れた。




咲「無くしていなくて良かったです。」




名前の知らない、おっちょこちょいな女性のお話。


僕は彼女を、明里と名付ける。



灯りを照らす明かり。


微笑ましい午後のスーパーでのお話。





和華「だからさっきからニコニコしているんだ。」


咲「あるよね、こういうこと。」


和華「あるある。」